
イラン出版翻訳事情
アジアにイランの書籍を広げる
KANOONの試み
Saideh Argani氏に訊く
Report
児童書出版
古来、ペルシャ詩人を輩出してきたイランでは、詩の心が文章や絵に息づき、独特の物語世界を生み出している。
藤元優子氏によれば、イラン現代文学は、まず1920年代初めに第一歩を踏み出している。
それは、「偉大な古典の伝統の頸木からの脱却を試みながら、西洋文学の焼き直しではないオリジナリティーの追求にあるという。それは、「古代ペルシア帝国の栄光を誇りつつも、抗いがたい西欧化の波に飲み込まれつつあったイラン人の、アイデンティティ模索の葛藤を映し出す鏡」とも言えるという。
そして、40年代の第二次世界大戦、50年代の石油国有化運動、60年代の農地改革を中心とする上からの改革、1979年のイスラーム革命、80年代の対イラク戦争といった相次ぐ政治・社会の混乱は、言論統制と相俟って、文学作品に暗い影を落としたという。
このような現代イランの文学の動向の中で、1960年代以降、積極的に児童書が出版されるようになってきた。
本誌でもインタビューに応じてくれたペルシャ語翻訳家、愛甲恵子氏によれば、イラン国内の画家や作家、詩人たちによる、翻訳物ではない独自の絵本を作ろうという試みによって、ボローニャやブラティスラヴァなど、国際コンクールでの入選作品が出始め、特に近年は若手イラストレーターの活躍が目立ってきているという。
児童書出版が活発な要因の一つには、イランの15歳未満の人口が総人口の約3割以上を占めるという国内要因もあろうと思われ、その意味では、きちんと政策上のマーケティングが行き届いていることになる。
以下では、酒井貴美子氏(国際子ども図書館)のレポート(『国際子ども図書館の窓』第8号2008年3月刊行「特集:世界を知る」から)を引用し、イランの児童書出版に関する政策をレビューした。イランからの出版情報は極めて乏しく、貴重な報告となっている。
出版政策
イランは、ここ数年、政府が出版社に対して、税金の免除、用紙の安価な供給、資金貸付などの直接的な補助を行い、出版の振興を図ってきている。
しかし、この制度を悪用して、本を1冊だけ出版して税金の免除を受ける「出版社」が出現したり、出版される本の水準が必ずしも高いものではないということもあって、政府はこうした措置の打ち切りを決定している。
また出版社が増えても、取次業者がない上に書店の数が少ないため、図書が読者にまで届かないという事情もある。イランの児童書の2004年の出版点数は5,691点で全出版点数の13.7%を占める。人口に占める児童数の割合が高いので、児童書の需要はかなりあるが、政府の出版援助の打ち切りの結果、価格の値上げ、出版の減少が懸念されている。図書館が強力な購入者になりえていないという問題もある。
エジプトと同じくイランでも大手出版社は取次を兼ねる。出版社同士で協力してチェーン書店を作ろうという努力もなされている。イランは多民族国家であり、ペルシャ語から他の言語に訳して出版するということも行われている。
ここ10年間ずっと「子どもの本の最もすぐれた出版社」という評価を受けている大手出版社のOFOQ 社と、政府系機関の児童及び青少年知的発達研究所(略称:KANOON)の出版局に話を聞いたが、出版者の苦労や喜びはどこの国でも共通していると感じた。
イラン児童作家連盟、児童書挿絵画家協会も訪問したが、児童文学作家、挿絵画家だけで生活していくのはなかなか大変なようである。
イランでも児童文学作家は教師や編集者を兼ねている人が多い。児童書挿絵画家協会は所属作家の作品を紹介する英語・ペルシャ語併記の年鑑を出しており、外国の出版社をも視野に入れて活動しているという。
児童書関連機関の活動
イラン国立図書館では、新たに児童課が新設され、訪問した時には児童室開室準備に大忙しの様子だった。イランの児童書関連機関の活動は非常に活発である。
『イラン児童文学史』(全10巻)を刊行し、イラン各地の児童文学研究者のネットワークも持っているイラン児童文学史研究所(口絵参照)、イランで刊行された全児童書の書誌と概要を掲載した年鑑を出しているほか、イラン初の『青少年向け百科事典』(全10巻)を出版し、かつ児童書関連のワークショップ、研修を行っているイラン児童書評議会、内外の児童書や研究書を収集・提供している児童書研究のためのKANOON 参考図書館などがある。
イラン児童文学史研究所、イラン児童書評議会は、いずれも児童書に接することの難しい子どもたちへの働きかけをも含めた読書推進活動も行っている。KANOON 博物館は同出版局出版の絵本の原画をすべて保存している。
KANOON
KANOON(「児童及び青少年知的発達研究所」)は、児童・青少年の芸術的才能、創造性、可能性を伸ばすことを目的に1966年に創設された。
その中に教育研究所、芸術創造センター、演劇センター、映画センター、歴史センター、言語研究所、識字センター、出版局など多くの機関を抱え、地方も含めると総職員数は約2万人にのぼる。
以下では、KANOON職員、Saideh Argani氏に対するインタビューである。
Interview
KANOONはどのような運営になっていますか。
半官半民で、約3分の1が政府から補助をいただき、3分の2は独立採算です。
出展の意図は。
フランクフルトや韓国など、5回ぐらい外国のブックフェアに出展していますが、これはKANOONから出している本を紹介して仕事をしやすくするためです。
フェアでは主に児童書を取り扱っているんですか。
日本では、絵本が主に評判がいいので、成功しているのですが、それだけではなくて、今回は、ヤングアダルトとか大学生向けの本なども出品しています。
日本への進出の意図は。
始めてです。
ヨーロッパンの販売事情が低迷していることから、今後は、アジア、日本への進出していかなければならないと考えています。
日本の本はイランでは読まれていますか。
非常に少ないですね。ヨーロッパからの本は多いのですが。
情報そのものも、日本やアジアからのものは少ないです。
イランの本を入手するには。
必ず通していただくという決まったエージェントはいません。
今の時点では、降ろしている本屋さんとかエージェントはいますので、個人の方の場合は、そこから入手されるとよいともいます。
出版社の場合は、eメールでお問い合わせくだされば、直接、英語でやり取りさせていただきます。
日本の本をイランで出版する場合は。
国際部門でのお取り扱いとなりますが、大変厳しい審査が必要となります。
イランではどのような日本の本に興味がもたれていますか。
美しいものであってほしいし、物語などきちんとしたものが好まれます。
日本の文化が紹介されたものがよいと思います。
漫画などは。
漫画はイランでは余り読まれません。オファーは大変多いのですが。
アニメーションはKANOONでも作っており、イランで作ったものを紹介するのが多いです。
イランの国営放送などは日本のアニメに興味を持っているようですが。
今後の方針は。
今回、このフェアに出展してきている理由の一つとして、イランの本を売りたいこともありますが、日本の出版物の著作権を買い、イランで印刷して売りたいという考えをもっております。
interpreter AIKO KEIKO