世界の出版翻訳事情|フィンランド文学

翻訳出版をもっと手軽に


フィンランド出版翻訳事情



末延弘子

フィンランド語翻訳家
フィンランド文学情報センター


フィンランド政府外国人翻訳家賞を日本人として初受賞
「言葉は想いのかたち」その意味を汲みとり、
それがもっとも生きるよう、日本語という表現方法を探る
良書はきっと読み継がれるはずだという信念が
フィンランド文学の真髄を日本へ伝えている



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翻訳された訳書一覧(著者 タイトル 出版社)

ミルヤ・キヴィ 『ムーミン谷における友情と孤独』 タンペレ市立美術館
レーナ・クルーン 『ウンブラ/タイナロン』 新評論
ミルヤ・キヴィ 『おとぎの島』 タンペレ市立美術館
レーナ・クルーン 『木々は八月に何をするのか』 新評論
エリナ・ボレニウス他 『ムーミン谷の素敵な仲間たち展』 東映株式会社
カリ・ホタカイネン 『マイホーム』 新評論
ミルヤ・キヴィ 『ようこそ!ムーミン谷へ』 講談社
レーナ・クルーン 『ペレート・ムンドゥス』 新評論
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『麦わら帽子のヘイナとフェルト靴のトッス ―なぞのいたずら犯人―』 講談社
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『ヘイナとトッスの物語② トルスティは名探偵』 講談社
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 「ヘイナとトッスのクリスマス―フィンランドからのおたより―」
(青い鳥文庫スペシャル短編集『あなたに贈る物語』所収) 講談社
ハンネレ・フオヴィ 『羽根の鎖』 小峰書店
ヘイッキ・マキパー 『平等社会 フィンランドが育む未来型学力』 明石書店
ヤンナ・カントラ編 『全粒がゆと旅うさぎ フィンランドの子どもの本とヤングアダルト本』 フィンランド外務省
レーナ・クルーン 『蜜蜂の館 群れの物語』 新評論
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『ヘイナとトッスの物語③ 大きいエルサと大事件』 講談社
アンネ・ランピネン 『ヨウルプッキ フィンランドのサンタクロース物語』 アウリニア
ミカ・クルユ 『フィンランドのITクラスター地域の発展 オウルの奇跡の立役者たち』 新評論
カイス・ラッテュア 『フィンランド児童文学の玉手箱』 フィンランド児童文学機構
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『ヘイナとトッスの物語④ ヒラメ釣り漂流記』 講談社
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『リストとゆかいなラウハおばさん1 なぞのきょうはく状の巻』 小峰書店
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『リストとゆかいなラウハおばさん2 ぶつぶつソーセージの巻』 小峰書店
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『リストとゆかいなラウハおばさん3 はじめてのラブレター?!の巻』 小峰書店
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『リストとゆかいなラウハおばさん4 ヘンテコおばさんやってきたの巻』 小峰書店
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『リストとゆかいなラウハおばさん5 恋のライバルあらわるの巻』 小峰書店
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『リストとゆかいなラウハおばさん6 こまったニキビで大事件の巻』 小峰書店
シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラ 『リストとゆかいなラウハおばさん7 ラウハおばさん、先生になるの巻』 小峰書店
トゥイヤ・レヘティネン 『レベッカと夏の王子さま』 講談社
マリア・ヴオリオ 『リスとツバメ』 講談社 (近刊)
レーナ・クルーン 『偽窓』 新評論
サリ・ペルトニエミ 『小犬ケルップの物語』 文研出版
ハンネレ・フオヴィ 『大きいくまのタハマパーとなかまたち』 ひさかたチャイルド
ハンネレ・フオヴィ 『大きいくまのタハマパーとなかまたち タハマパー、いえをたてる』 ひさかたチャイルド
リーッカ・ヤンッティ 『カエデ騎士団』 評論社


末延弘子 すえのぶ ひろこ

トゥルク大学留学(フィンランド語・文化コース修了)
東海大学文学部北欧文学科卒業(フィンランド語・文学専攻)
フィンランド政府奨学金留学生としてタンペレ大学入学
フィンランド国立タンペレ大学人文学部フィンランド文学専攻修士課程修了
フィンランド文学情報センター(FILI)翻訳研修生として勤務
フィンランド文学翻訳家、作家、語学講師(東急セミナーBE・渋谷校講師)
フィンランド文学協会(Suomalaisen kirjallisuuden seura)、カレヴァラ協会(Kalevalaseura)会員
2007年度 フィンランド政府外国人翻訳家賞 受賞





フィンランド政府外国人翻訳家賞受賞者
翻訳家末延弘子氏に訊く




フィンランド文学を翻訳する

多くの訳書を手掛けています。すべて出版社への持ち込み企画ですか。

近刊の『カエデ騎士団』以外は、すべて持ち込みです。

あるいは、研究者仲間と主宰しているフィンランド文学情報サイトを通して、随時、出版社へのご紹介してきたものです。

大切な良書はきっと読み継がれるはずだ、という信念にも似た思いがあります。
したがって出版社へご紹介するものは良書ばかりです。


最も印象深い一冊は

私は、はじめから訳者になりたいと思っていたわけではありませんでした。

タンペレ大学時代に出会ったレーナ・クルーンの『タイナロン』の世界に触れ、これを伝えたいと思いました。
世界へのアプローチの仕方に、心が振幅するかのような、深奥から駆動してくるような、そんな感動を覚えたからです。

一点透視的なアプローチではなく、多点同時的な表現方法に、心が動きました。
世界はつまり多くの解釈から成っていて、それらが有機的に現在をつくっているという世界観は、日本人である私にとても強く響きました。

私をここへと突き動かした一冊をかたちにできたことは、もっとも印象深いと言えます。






レ-ナ クル-ン氏はどのような作家ですか。


彼女は、フィンランドの現代文学を代表する作家であり、哲学者です。
幻想文学を得意とし、風変わりな人物たちが登場し、それぞれの視点から、分かち合う世界に、あるいは、真理にアプローチする作品が多いと言えます。

虚と実、夢と現実、それらの境を叙情的にまぎらかし、私たちの現実に対する認識を問います。存在することとは何なのか。私たちはいかに存在するのか。

私とは他人の眼差しなくしては存在しえないものなのだということを、温かい思いやりと哲学的な深い思索をもって問うフィンランドでもっとも評価の高い作家の一人です。


フィンランド文学情報サイト  http://kirjojenpuutarha.pupu.jp/
フィンランド文学研究家五十嵐淳氏と主宰。フィンランド文学作品の情報だけでなく、 フィンランド文学協会(SKS)、フィンランド文学情報センター(FILI)、フィンランド児童文学機構(SNI)などの情報も随時掲載している。


最近は、子どもの本の訳書も多いですね。



私は大人の文学から出立したのですが、最近は、子どもの本を訳す機会に恵まれるようにもなりました。

なかでも、ノポラ姉妹という二人の視点から描かれたロングラン人気児童書「ヘイナとトッスの物語」シリーズ(講談社)と「リストとゆかいなラウハおばさん」シリーズ全七巻(小峰書店)を邦訳実現できたことも、大きな喜びの一つです。

とりわけ、「リストとゆかいなラウハおばさん」シリーズは、ご紹介させていただいて5年後にようやくかたちになりましたから、嬉しさもひとしおでした。

しかし、すべてがどれも心に残っています。
なぜなら、やはり、読み継がれるはずだという信念に似た思いがあるからでしょう。



シニッカ・ノポラとティーナ・ノポラ姉妹の「リストとゆかいなラウハおばさん」シリーズは、昨年、十周年をむかえました。今までに九冊が刊行され、小学校の教科書でも取りあげられ、子どもだけでなく親からも厚い支持を受けています。刊行十周年を記念して今春に上映された実写映画『リスト・ラッパーヤ』は、人口五百万あまりのフィンランドで二十万人近い観客を動員しています。ミュージカルコメディータッチの映画は、第四巻『ヘンテコおばさんやってきた』を原作にしたもので、同シリーズは過去に舞台化もされました。(文 末延弘子)
http://www.komineshoten.co.jp/tokushu/Risto/index.html(小峰書店HP)


翻訳で気を付けていることは。




どんな言語であれ、文学に限って申し上げるのなら、私は対訳することはありません。
なぜなら、言葉は想いのかたちだと思っていますから、それを汲みとりたく、また、それがもっとも生きるように、日本語という一つの表現方法のなかで探っています。


また、文法的な問題というよりも、文化的な違いをいかに伝えるかという点に心を配ります。

夏至祭がなぜフィンランド人にとって大切なのか、なぜ夜でも昼間のように明るいのか。これを、読んでくださる方々を想像しながら、脚注に添えたり、地の文に組み込んだりします。

あるいは、韻を踏んだ言葉遊びをいかに伝えるかということにも気を遣います。
言葉の意味を重視すべきなのか、それとも、韻律の楽しさを優先させるべきなのか。

最終的には、意味が日本語の中で生きるほうを選びます。
読者のみなさんにお話を楽しんでいただきたいという思いがあるからです。




翻訳フィンランド語の翻訳の楽しさ、面白さとは。


響き合う言葉の美しさを感じられることです。

豊かな母音と類い稀なる格変化によるシンフォニックな調和は、音楽を訳しているような気持ちになります。



今後、どのような本を翻訳したいですか。


邦訳という観点からですと、大人向けであれ、子ども向けであれ、一方でフィンランドらしさがありながらも、一方で普遍的でもある、そんな新しさと懐かしさを兼ね備えた本をご紹介できれば嬉しく思います。


フィンランド文学を紹介する


フィンランドでは、どのようなジャンルが多く読まれていますか。

ファンタジー、冒険、ミステリ、詩、絵本などでしょうか。


フィンランド文学を紹介する翻訳者として、日本の読者にどのようなことを希望していますか。


フィンランド文学からフィンランド人の世界への向き合い方に触れてほしいと思う一方で、フィンランド文学が、日本の、あるいは、自分の世界への向き合い方を考える契機になれば嬉しいです。



フィンランドにおける日本の出版物についての関心度は。

詳しくは言えないのですが、昔から、短歌や俳句や能には深い関心が寄せられていました。詩に対する評価や意識が高いからだと思います。

遡りますが、1950年代頃は、モダニズムの影響で、川端、太宰、谷崎、大岡などが読まれました。

しかし、今は、アニメや漫画が関心を引いているように思います。


フィンランド文学情報センターの役割について教えてください。

フィンランド文学を世界に発信するために、媒介者となる翻訳家の役割を大切に考えてくれる機関です。

フィンランド人の世界に対する認識を最良のかたちで伝えるために、フィンランド語から直接、伝えたい国の言葉に訳すことを最重要視しています。