
佐藤弦
日本のローカリゼーション業界は今や成熟期に突入
黎明期から業界を知る佐藤氏が
機械翻訳、サーバーTM、言語品質をテーマに語る
ローカリゼーションの現在と未来
Vol.2 翻訳メモリ/後篇
皆様、こんにちは。
この連載は、目指すべきローカリゼーションの未来を考えるというものです。今日は、翻訳メモリについての考察の二回目です。
前回は、何がサーバーTMの導入を阻んでいるかという話をしました。職人的である翻訳者は、他人と情報を分かち合うよりも、自分の手の中で翻訳を完成させることを好むというところまで話しました。
新しい働き方
「ローカリゼーションの魅力は、テクノロジーを利用して作業の仕方を変えていくことにある」ローカリゼーションに携わる翻訳者がこう考えないかぎり、ローカリゼーションは衰退すると僕は思います(より正確に言えば、翻訳業界というより大きい業種に吸収される)。
手の中でより良いものを練り上げるという職人魂を否定する気はないのですが、もしその方向に進むのであれば、品質を現在よりも飛躍的に上げなければならないでしょう。
そして、残念ながらそれは現実的な話には思えません。
サーバーTMを使って、他人と一緒に翻訳をしていくことは良くないことでしょうか? そのことによって翻訳時の選択肢が少なくなり、クリエイティビティが減るかもしれません。
だけど、仕事の面白さというのは色々なところに見つけることができます。サーバーTMを介して他の翻訳者の翻訳を読み、原文に対する理解を深めたり、チャットで相談しながら仕事をしていくというのはそれほど悪いことでないと思います。
サーバー管理の発展形
サーバーTMは翻訳メモリを共有するだけのシステムですが、これの上位システムとして、ワークフロー管理システムがあります。これを使用すると、ファイルの履歴管理やFTPでの受け渡しなどを効率的に行えます。
このシステムのポイントは2つあると思います。
一つは、分量が多く、多言語で行われるプロジェクトを一人のプロジェクトマネージャが管理できるようにすること、もう一つは、翻訳者が働く時間帯や作業の分量を自分で選択できるようにすることです。
前者は、ファイルの差し替えやアップロードを自動化したり、メールでの連絡の手間を無くすことによって実現されます。平たく言えば、現在、漁業や農業で起こりつつある、産地から消費者への直接販売のようなことを行うことで、いままでその間で費やされていた時間やコストを削減するわけです。
仕事が発生したことを登録翻訳者すべてに自動的に伝えることで、時間がある人から順番に仕事をしていくことができるようになるわけです。充分な翻訳者を登録していれば、翻訳者のスケジュールを確認する手間が必要なくなり、
また、より多くの収入が必要な翻訳者は、他人より早く仕事にとりかかることで多くの分量をこなすことができるようになります。
結論
現在、ローカリゼーションに従事している方は三択を迫られています。
一つは、内容の理解を深め、発注者が驚くような品質の翻訳を作成すること。もう一つは、言語スキルを上げ、IT業界以外の翻訳でもプロの仕事ができるようになること。
そして最後が、翻訳メモリを中心としたテクノロジーを積極的に習得し、新しい働き方を実現することです。
今後の連載でより詳しく語っていくことになると思いますが、私の経験としては、第三の選択肢が最も現実的です。
そして、これが最もクライアントに対してアピールしやすいスキルです。テクノロジーの導入はコストや、習得のための時間などが必要となりますが、現在、市場にあるテクノロジーを適切に理解して、自分にとって必要かどうかを検討するということは、ローカリゼーションに関わるすべての人が行わなければならないことです。
つづく

