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リンギストの英語教授法を紐解く
フリーの翻訳者として、何年になりますか。
専門の言語、取り扱い分野についても教えてください。
独立して4年目になりました(以前、米国カリフォルニア州の留学関連会社で英語講師を務めながら翻訳業務も多くはありませんが担当していました)。
英日メインですが、日英翻訳もお手伝いしています。
はじめに担当した案件がホテルのウェブサイト案件だったこともあり、ホテル・観光関連、そしてこれらに似たトーンを扱うやわらかめのマーケティング、たとえばスポーツ用品や一流ブランドのウェブサイトなども多く翻訳しています。
他にはビジネス一般や社会記事等も継続して引き受けています。
翻訳者になろうとしたのは。
子供の頃から、本を読むことが大好きでした。
小学校では新学期に受け取った国語の教科書は、その日のうちに全部読んでしまいました。すぐに家中の本を読むようになったのです。
高校、大学と英語を専攻する学校に行きましたが、大学在学中に、教職の一環として教育実習に行き、言葉を教える教育の面白さに惹かれていました。
翻訳も興味はあったのですが、卒業と同時に米国の大学院で英語教授法を専攻し、米国と日本で7年以上教鞭を取ることに。
こうしてつい最近まで英語教育を専門にしてきたのですが、出産と米国への引っ越しを機に、これまでずっと気にはなっていた翻訳の道を探りました。
実は全く言語と関係のない、たとえば医療関係の道も考えたのですが、やはりこれまで勉強してきた大好きな言語を活かせる職が、やはり向いていて楽しめるようです。
これまでに手掛けられた翻訳実績について、ご紹介ください。
数年でこれだけいろいろ担当させていただけ、本当に幸運に思っています。
ホテルでは、宿泊パッケージにボディガードが付くような超高級ホテルチェーンから、アメリカではどこででも見られるモーテルまで、幅広く翻訳してきました。ホテル関連の翻訳は自信を持って取り組んでいるからか、新規で頂戴するお問い合わせでもホテル関連は多いです。
観光関連ではカナダやアメリカの観光局によるサイトやニュースレター、航空会社のウェブサイト等です。
実務では日本でも人気のスポーツ用品・アパレルサイトや広告多数、社内研修資料(メディカル、コンプライアンス等)、社内ニュースレター、オンラインマーケティングサイト等幅広くお手伝いしています。
雑誌記事も継続的にお手伝いしています。
翻訳の品質を維持、向上のために、どのような工夫や努力をしていますか。
フリーランスで翻訳をしはじめた最初の案件からお世話になっているエージェントの方に、最近、似たような質問をしました。その際おっしゃっていたのが「とにかく断らずに数をこなし、実地訓練を積むこと」。
大学院では文献にあたったり、データをそろえたり、といった理論面を重視していたのですが、翻訳では案件をこなしてこそ身に付く点も本当に多いです。苦手だから、と言って案件を避けることはせず、全身で取り組むことで向上していくことが体感できます。
たとえば、ローカライズのお仕事は、順守するべきスタイルガイドも分厚く、語法に関する指定に従うのはもちろん、半角で、と指定されているアルファベットが全角であったり、全角と半角の間の半角スペースが抜けていたり、といったミスを犯せば、皆に迷惑がかかります。
でも苦手意識のあったローカライズも、必死に取り組むうちに、ミスも減り、だんだんと要領がつかめてきました。ということで、まず「食わず嫌いをせずに、いろいろな仕事に取り組む」がまず1点です。
でも、何にでも挑戦するべきだと言って、あまりにも身の丈以上のお仕事も引き受けては、翻訳会社の方、そしてクライアントにご迷惑をおかけしてしまいます。そういった場合にはよく見極め、必要であれば断ったり、他の方を紹介する勇気は必要ですが。
第2点は、英語と日本語の表現力を磨くこと。英語の文構造で全くわからない、ということはまずないのですが、表現は膨大な量があるだけに、磨いても磨いても終わりがありません。これは日本語も同じ。
というわけで、米国在住ですが、日本語の新聞をとっています。読んでいてもどんどん美しい、そして今使われている日本語が入ってくるので楽しいです。
また経費で日本のファッション雑誌もたまに買っています(笑)。ちゃんと仕事に役立てていますよ。今度は旅行記なども読んでみたいです。面白いでしょうし、きっと使える表現もたくさんあると思います。
翻訳では、どのような点が難しいですか。
ホテル・観光は自身も旅行が好きなため楽しく訳せるのですが、そうは言っても大変な点も。たとえば、とても困るのが、外国の小さな町の名前です。検索しても出てこないこともしばしば。英語なら音声学のルールに従いスペルアウトもできるし、ネイティブに聞くことも簡単ですが、中国語、ましてやトルコ語などでは見当もつきません。
先日はトルコとサウジアラビアの地名を訳す案件をお手伝いしたのですが、検索してもどうしようもなく、結局ネイティブのトルコ語話者と、アラビア語話者(アメリカ人)に地名を読み上げてもらい書き取る、という作業で乗り越え、なんとか納品しました。こうした案件はドキドキします。
また、超高級ブランドやホテルの詳細などでは、たとえば「豪華」という語を一つとっても、何通りに訳せるか、といった点が、難しくはないですが、なかなか面白いです。Luxurious、gorgeous、lush、superb、fine、state-of-the-art。豪華な、華やかな、豪奢な、きらめくような、輝く、ゴージャスな、ぜいたくな、豪勢な、最高級の、圧倒されるような、華麗な。
どれも微妙にニュアンスが違うので、同じ語を何度も繰り返し使わないよう気を使いながら、訳しています。
翻訳のどのような点が面白いですか。
翻訳中のホテルや観光地、ブランド品をご検討中のお客様に、いかにその魅力を伝えるかが、腕の見せ所。先日お手伝いした有名スポーツブランドのインタビュー広告では、インタビューを受けている選手がよりどころとしてきた哲学を、短く字幕にまとめました。
聞いていて読んでいて、本当に感動する内容でした。その感動を簡潔に伝え、その哲学を背景としているスポーツブランドの誇りをいかにお客様にお伝えするのか。一語一句に気を使います。
また、翻訳をしていて探している語、ニュアンスが頭にポコッと浮かび、それが作業中のPC画面に現れ、原文と見比べた際に「これでしょ!」と思うタイミング。これも嬉しいです。脳と体が翻訳の女神に乗り移られたような。今まで30数年間蓄積してきた言語や文化知識が体現される瞬間です。
「これでお客様に正確に伝わる。この組み合わせは、恐らく、今までこの人生を歩んできた私にしか考え付かなかった」と自画自賛します(笑)。
現在、翻訳業の他に仕事を行っていますか。
現在のところ、翻訳を専業としています。
今後、どのような翻訳を手がけてみたいですか。
まずは人助けにつながる翻訳です。国際協力や教育を通じてどこかの誰かを助けられる、そんな分野の翻訳を目指して、現在様々な企業やNPOにコンタクトしています。おかげさまで少しずつこうした翻訳も増え、これからが楽しみです。
もう一つは、出版翻訳。両親が海外のミステリー小説好きだったため、家にある本を片っ端から読んでいた私も数多く読みました。読みやすい翻訳、下手で間違いが多い翻訳本も多く目にしてきました。最近では、米国在住の利点を活かし、英語のノンフィクションで日本に紹介されていない本も多く読んでいます。こうした本を訳し、日本語で楽しみたい読者の方にいつかお届けできれば、こんなに嬉しいことはありません。
また、いつか大学の英語クラス等で、翻訳を教えられれば嬉しいです。英語教育業界で鍛えたティーチング テクニックと、翻訳業界で鍛えたスキルで、面白い授業ができるのではないかと思っています。
でもやはり、好きなホテル・観光やファッション関連の翻訳もきっと離れられないと思います。
現在、留学コンサルタントの会社を経営されていますね。
米国への留学、特に大学院レベルでの留学を目指していらっしゃる方のお手伝いをしています。推薦状の英訳(英語圏文化にふさわしいものにする翻「文化」含む)のお手伝いや出願書類の確認、留学時に大変重要な志望動機に関するエッセイのライティング指導、大学院のリサーチまで、業務は多岐にわたります。
私が大学に留学しようと思ったとき、はじめに相談に行ったのが、当時ゼミでお世話になっていた先生でした。先生に推薦状をお願いすると、先生が「学士レベルの留学では書けません、あなたは大学院に行きなさい。」とおっしゃいました。
まさか自分が大学院レベルで留学できるとは思ってもいなかったので、本当に驚いたのですが、結局この先生のおかげで、大学院留学を実現するに至りました。当時はインターネットがまだない時代。いろいろと調べるのは大変でしたが、この先生が資料は大阪のアメリカ大使館に行けばある、出願にはこういったものが必要だ、と教えてくださったので、無事に準備ができました。
でもいくらインターネットが広がったと言っても、留学準備もどうしてよいのかわからないことも多くあります。
日本で社会人をされていると、推薦状を書いてもらうにも上司の方は英語では書けない、といったことも。こうした小さなハードルを乗り越えて、お客様にふさわしい留学の実現をお手伝いしたいと思い、起業しました。
また、これまで日本から学生を大学講師として送り出し、また米国サイドで留学カウンセラーとしてヘルプしてきた経験から、留学の素晴らしさ、そして大変さは身にしみています。こうした経験を生かすことができる業務で、本当に楽しいです。
どのような方々の留学をお手伝いしましたか。
日本の法曹界で活躍されている方のロースクール留学、ワインを専門に扱われている会社員の方のMBA留学、あるいは、造園家を目指しているお客様の大学院留学、水処理を専門とする研究員の博士課程留学などをお世話させていただきました。
進まれる道は本当にさまざまです。
小さな会社なので小回りが利くため、お客様のニーズに沿ったパッケージを提案させていただいています。
大学院では、英語教授法を専攻していますね。
Monterey Institute of International Studies大学院(カリフォルニア州)で、Teaching English to Speakers of Other Languages(英語教授法)を修めています。
Teaching English to Speakers of Other Languages(TESOL)とは、英語を母国語としない方に英語を教える教授法です。「教える」ことと「第2言語としての英語」を、多角的に勉強しました。
移民の国であるアメリカでは、長年英語教育が研究されてきました。受講した授業には「授業観察」「教授法」「教育とリサーチ」「社会言語学」「英語学」「英語ライティング」「ケーススタディ&カリキュラムデザイン」「教職」などがあります。1年半、ネイティブが多くを占めるクラスで、みっちりと鍛えられました。
また、カナダでは、インターネット教育やビジネスコースも修了していますね。どのようなものですか。
「Web-based Instruction(インターネットを使った教育)」コース(Simon Fraser University)は、日本で大学講師をしていた際、Computer Assisted Language Learning(CALL、コールと呼ばれるコンピュータを生かした言語教育)のクラスを担当する機会に恵まれたため、受講しました。
コンピュータならではの環境、たとえば掲示板やビデオを掲載したページなどを活かした教育について、自身がウェブサイトやチャットを使った通信教育を受講しながら学びました。おかげで、50名という大人数のCALLクラスで、レベルに応じてどんどんリーディングを進めることができる、インターネットでのリソースをうまく活かしたクラスを実現できました。
一方、「Business Management(ビジネスマネジメント)」コース(Lane Community College)では、地元で中小企業を営むクラスメートと、ミニMBAのようなクラスを隔週で受けました。
クラスメートは皆、ビジネスパーソン。刺激を受けました。特に、自分や企業をいかに売り込むか、といった内容を扱ったマーケティングやブランディングの授業は、起業やフリーランス生活だけでなく、翻訳にも役に立ちました。
上記の英語教授法は、日本の大学で従来の教授指導と比較した場合、どのような点が特色がありますか。
日本でも、最近はAssistant Language Teacher(ALT、外国語指導助手)と呼ばれるネイティブやニアネイティブの方も増え、だいぶ雰囲気は変わってきたように思います。
ですが、やはり受験をゴールとして勉強する日本の高校までの勉強と、移民や留学生の毎日の生活を即支えることをゴールとしている米国での指導は、大きく異なります。
まず、教授法1つとっても、日本の学校ではまだまだ文法を中心に、学問として扱われてる部分が多いのが実情のように思います。
「何を教わるべきか」がまず存在する、トップダウン形式ですね。
米国の大学院で感動したのが、「学生が何を勉強したいのか、どのような英語を必要としているのか」を中心にすえた、いわばボトムアップ形式であることです。この概念を学習してからは、私が担当する授業では、ほぼ毎回授業初回にニーズ分析のためのアンケートを実施しています。
何を目標として、どのように達成していきたいのか。それを自ら明確にすることで、学生自身も自分の学習に責任を持って取り組んでいけます。
これらの英語教授法の習得は、その後の仕事で、どのように生かされていますか。
上述の内容に加え、留学して自身の英語が通じず悲しい思い、恥ずかしい思いをたくさん重ねたことは、その後学生を助ける際、本当に役に立っています。
こちらのアメリカの地元大学の付属英語プログラムでも不定期に英語を教えているのですが、学生も、この先生ならわかってくれる、と思ってくれることが多いようです。
第一印象で「え、この日本人が先生!?」という顔をされることも多いですが、こちらはどうしようもありません(笑)。
語学関連の著書も出されています。
どのような切り口で書かれたものですか。
英語は、当たり前ですが言語です。言語には、必ずルールがあります。そのルールでも最も基本的なものを一つずつ着実にマスターしていくことで、応用していけるように構成しました。
また説明文などは「これでもか!」というほど説明しました。わからなくて当たり前、できていたらこの本を買っているわけがない、というスタンスです。スキルに納得して自分のものにしなければ、お買い上げいただいた意味がありません。
加えて、共著者である夫には、アメリカ人ならではの視点でコラムもいくつか書いてもらい、英語を好きになってもらう努力もしました。
「身によくつくTOEIC TEST完全攻略600点全パート」
「身によくつくTOEICTEST完全攻略600点リーディング」
英語のライティングでは、全般的に、どのような点について心掛けていますか。
英語で見られる本当に基本的なルールに従うことです。
また、わかりやすく書くことを心がけています。技巧を凝らした文ではなく、シンプルに意味が通じるよう、取り組んでいます。
ライティングはあまり難しいと思ったことはありません。大学院に留学した当初は難しかったのですが、図書館に並べてあるお手本のリサーチペーパーを山のように読み、構成をマスターしました。その構成に従えば、ある程度は論理的にかけるようになりました。
また何年も英語のアカデミック ライティングを教えるうちに、きちんと書かないと、書きながら落ち着かない気持ちになるようになってしまいました。
また、ネイティブではないのだから、ネイティブのように書けなくて当たり前だ、と数年前に達観しました。そのため、必要な際はネイティブチェックをつけてから納品しています。
ただきっと死ぬまで冠詞「the、a、an」には苦しめられるのだろうな、と覚悟しています(笑)。
日本人が英語を攻略する方法として、どのようなことが最も大切だとお考えでしょうか。
何度も繰り返しになりますが、基本です。基本を抑えることが大事です。そして繰り返し、自分のものになるまで、勉強してください。
よく「先生、どうやって勉強したらうまくなるん?」と聞かれますが、「地道にがんばってください」と言うしかありません。「先生やって、単語帳何十個も作ってがんばったんやで」と。
私の恩師も著書(「「達人」の英語学習法」)に書いていらっしゃいますが、コツコツが大事です。そして、ネイティブになることを目標としてはいけません。英語が大変上手でも、日本語話者特有のアクセントがあって、何も悪いことはありません。
そして、好きになること。
中学時代から、好きな音楽や映画は何度も何度も聴いて見て、自分のものにしました。好きでないことは、やっていて苦にしかなりません。なにか好きになれる方法、たとえば好きな映画であるとか、本であるとか、読みたいサイトであるとか。それが見つかればしめたもの、です。
また、新聞の全面広告や誇大広告は信じないでください(笑)。
「グレープフルーツ ダイエット」や「バナナ ダイエット」と同じです。ちゃんとまじめに実行すれば、効くこともあります。
でも「手軽にちょっとだけして、あっという間に成果がでる」ことはありません。ダイエットでも、英語学習でも同じです。地道に、コツコツ、がんばりましょう。
畑麻衣子 はたまいこ Hata Maiko
翻訳者 留学コンサルタント
同志社女子大学で英語コミュニケーション・教育学士号を取得。
カリフォルニア州Monterey Institute of International Studies大学院で、Teaching English to Speakers of Other Languages(英語教授法)修士課程を修了。
帰国後は、ライティング、リーディング、リスニング、スピーキング、TOEFL準備コース、留学準備コースなど、関東・関西有名私大で指導する。
同時に、Web-based Instructionコース(Simon Fraser University)やBusiness Management(ビジネス)コース(Lane Community College)も修了。
留学コーディネート会社(カリフォルニア)での留学生サポート経験を活かし、大学院留学を支援するジャパン ランゲージ ソリューションズ、LLCを米国オレゴン州に設立。現地のプログラムで英語も教える。
共著書に「身によくつくTOEIC TEST完全攻略600点全パート」(NOVA出版)、「身によくつくTOEICTEST完全攻略600点リーディング」(NOVA出版)。
また、権威あるTeaching English to Speakers of Other Languages (TESOL)、Japan Association of Language Teachers (JALT)などでの学会発表や、さまざまな学術誌で論文を発表している。
interviewed by WASEDABOOK


