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トリリンガル・ライターのケータイ小説デビュー
スウェーデン語、英語、中国語を操られますね。
どのように習得されましたか。
中国語は北九州大学外国語学部中国学科で学びました。中国語が理解できたら楽しいだろうと思って入ったのですが、あまり勉強は真面目な学生ではなく、在学中読むのはともかく話すことは全然できなかったんです。就職の後中国の企業とのやり取りをする必要に迫られて、あわてて夜間の中国語教室に入りました。なので、基本は学校で、会話は就職してから勉強したというかんじです。
英語は4年生のときに就職活動の一環としてクラスメートたちと英検の勉強を始めたのですが、これがなかなか面白くて、実際に就職してから必要もあったので、勉強会などに出席を始めました。
スウェーデン語は、スウェーデンに来る前はほとんどまったくできませんでした。スウェーデンにはSFI(Svenska För Invandrare、訳:移民のためのスウェーデン語)という学校がほとんどのコミューン(日本で言う市町村)にあって、外国からスウェーデンに引っ越してきた人が無料で週10時間ほどスウェーデン語を学ぶことができるんです。私がその学校に通っていたのは90年代の半ばで、イラクや旧ユーゴの戦争を逃れて来た難民の人たちがたくさんそこで学んでいました。
その学校で半年ほど学んだ後、Komvuxという、これも各コミューンにある成人学校でより上級のスウェーデン語を勉強しました。
もちろん長い間住んでいればいやでも言葉は覚えますが、本当にスウェーデン語がのびたと感じたのは、職業訓練のコースや大学に通ったときです。
翻訳者になろうとしたのは。
小さい頃から本が大好きでした。中学・高校を通じて図書館の貸し出し本数では校内一、二を争う読書家でした。
また、自分で物語を書くことも好きでした。成人して外国語を学び、その流れから自然に翻訳に興味を持ったという感じです。
フリーとして何年になりますか。
専門の取り扱い分野についても教えてください。
初めて報酬をいただく翻訳のお仕事は忘れもしない、2000年の1月でした。
その頃、まだ子供が4ヶ月ぐらいだったので、夜中しか仕事ができず、「体力をつけるため」と称して夜中もランチと同じぐらい食事をしていました。そのおかげで、納品したときには8キロも体重が増えていてびっくりしました。
スウェーデン語のような小さな言語では、専門にこだわると仕事が限られてしまいます。どんな分野でも自分でできるだけのことをするつもりで対応するのみです。
でも実際、幸いにして技術や医学などのあまりにも専門的な内容の翻訳を扱った事はありません。
私はスウェーデンに来てから准看護師の資格を取ったので、あえて技術翻訳の専門分野というなら医学が一番興味深いでしょうか。
これまでに手掛けられた翻訳の実績について教えてください。
ありとあらゆる分野を翻訳してきたので列挙するととても長くなります。思い出に残っているものを挙げると次のようなものです。
2000年頃、スウェーデンでも日本の漫画ブームが起こり、漫画翻訳雑誌の第一号が発行されました。そのとき、スウェーデン人の日本語翻訳家と協力して「ちょびっツ」「GTO」を訳しました。
日本の漫画・アニメ文化は今もこちらの若い人に大変な人気で、そのせいで日本語を学ぶ人も多いようです。最近日本の政治や経済は全体的に元気がないようですが、こんなに素晴らしい文化を生んだことをもっと誇りに思ってほしいといつも思っています。
スウェーデン映画の字幕も何作か訳しました。60年代のあまりメジャーじゃない作品とかも日本でDVDになっているんです。それがファッションや風景がすごくポップで、私はファンになってしまいました。
あと、イングリッド・バーグマンの出世作「間奏曲」とか。白黒だけどすごく美しいんです。彼女はこの作品によってスウェーデンでスターになり、ハリウッドに進出してハリウッド男優と同じ作品を撮り直したんですよね。
ストックホルムやコペンハーゲンの観光案内も訳して、観光船やバスの放送吹き込みもしましたよ。そういうお仕事は自分の知識も広がるし、楽しいですね。
訳書は今のところありません。
スウェーデン人の女流推理小説家の作品を訳さないかというお話しをいただいたのですが、残念ながらボツになってしまいました。
これからに期待します。
翻訳の品質を維持、向上のために、どのような工夫や努力をしていますか。
とにかく、日本語をたくさん読むことです。
かつて海外に住んでいてはそれは難しかったと思うのですが、ありがたいことに今はインターネットがありますからね。
ニュースにしろ、お笑い芸人にしろ、私があまりにも日本の最新情報をよく知っているので、日本の友達は「本当にスウェーデンにいるの? 日本のどこかに隠れているんじゃないの?」と言うぐらいです。
あと、スウェーデン語もどんどん読んで、知らないことはネットで調べたり、積極的に人に聞いたりすること。
普通のスウェーデン人が知らない言葉を私が知っていたりすることもあります。
現在、受注している翻訳は、どのようなものが多いのですか。
現在受注しているのはスウェーデン語のみです。
分野はかなり幅広いですが、現在翻訳専業ではない関係上、時間を要するのであまり専門的に調べなくてはいけない内容のものは受注しないようにしています。
翻訳のどのような点が面白いですか。
他言語で書かれたものを、まるで元から日本語で書いたもののように復元できた、と感じたとき、が一番楽しいです。
ぴったりの訳語が見つかったとき、胸がすっとします。ジグゾーパズルがぴったりはまった時のような気持ちでしょうか。
現在、翻訳業の他に仕事を行っていますか。
現在のところ、翻訳の他に、高校やカルチャーセンタなどで日本語や中国語、数学などを教えています。その合間に通訳やライター、ケータイ作家の仕事が時折入るという形です。
今後、どのような翻訳を手がけてみたいですか。
スウェーデンでは活躍している女流推理小説家がたくさんいるんです。彼女らの作品を訳してみたいです。
「文芸翻訳書」の出版企画も持ち上がったのですが、ボツになってしまいました・・・。出版社の方でも色々ご事情があるみたいで、スウェーデン人の作家でも、もう英語に訳されている作品は、英語から日本語へ翻訳するとか。
でも、これからまた機会があることを祈って!
通訳もされていますね。どのような案件を通訳されてきましたか。
これもいろいろあるのですが、これまでで一番大きな仕事はテレビ番組の取材通訳です。
テレビ朝日の人気番組で、スウェーデン人の霊能者の通訳をしました。
彼が色々な場所で透視する必要があったので、スウェーデンと、日本の四国から東北地方まで同行しました。
こういう番組はスウェーデンではあまり信用されないのですが、日本人は大好きですよね。
しかし、透視なんて信じられますか? 私は彼の仕事を間近で見てわかったのですが、 ・・・ 本当に信じられますよ!!
通訳のどのような点が難しいでしょうか。
じっくり考える時間がないことです。すぐに何かを言わないといけないこと。だから考えている暇はないですね。どんどん時間は過ぎていきますから。
先ほどの霊能力者ですが、彼は自分の話していることがまったくわからないのだそうです。だから後で何を言ったか聞いても覚えていないので、聞く人が覚えていてください、と言われました。なんだかそれと似ています。かといって通訳は、場違いな表現とか、あまり迂闊なことは言えないときもあるし。それが難しいですね。
私の場合、メモ帳とペンは通訳のとき必須です。言われたことを少しでも長く記憶に留めておくためです。
翻訳と比べ、通訳の仕事の需要は、いかがでしょうか。
よくわかりません。
私はこの数年、仕事を選ぶようになったので、スケジュールに合わない仕事や興味の湧かない仕事は贅沢にもどんどんお断りしています。
コーディネータの仕事も同様です。スウェーデンにおける日系企業の現地コーディネータのお話しは以前いくつかあったのですが、いずれも実現していません。
ライターを始めて、何年になりますか。
15年ぐらいです。
バベル社の「翻訳の世界」という翻訳雑誌にスウェーデン便りという小さなコラムを連載させていただいたのが最初です。
どのような記事を書かれてきましたか。
これも分野は多岐に渡るのですが、特に専門分野的なものはありません。
これまでに書いてきたのは、スウェーデンのカジノや、ボート、サッカー、幼児教育、節約生活など様々で、生活一般です。
サッカーに関する記事も書かれたとか。
「Jリーグ・アカデミーだより」(社団法人日本プロサッカーリーグ発行)というものを2003年から2年間ほど連載しました。
これはJリーグの傘下にある団体に定期的に配るパンフレットのようなものだったと思います。
サッカーはスウェーデンではとてもさかんです。地元のサッカー少年団などの取材をさせていただきました。
翻訳や通訳の他に、さらにライターを志そうとした動機は。
翻訳では原文という確固とした枠を離れることはできないのですが、ライターとしては自分で好きなように書くことができるのが魅力です。
もちろんライターとしても発注主様の意向はあるので、まったく自分の好きなように、というわけにはいかないのですが、翻訳に比べるとその枠はゆるいですよね。
ライターになるために、何か努力や準備をされましたか。
子供のときから作文や読書感想文は得意だったので、特にライターになるための努力はしていません。
準備としては、仕事を得るための出版社への投稿とか、ネットのライター専門サイトの掲示板に自分の広告を打つことぐらいでしょうか。
ライティングや取材で、どのような点について心掛けていますか。
クライアント様の意向ですね。
取材で注意しているのは、お邪魔にならないことかな。
では、ライティングや取材の難しさは。
的確な相手に上手にアポイントメントを取ること。あまりお邪魔にならないように、いいインタビューを引き出すこと。図々しい性格が必要かと思われます。
あと、予算の関係上、カメラマンを雇えないこともあるので、自分の写真の腕前もいいほうがいいですね。
自前のサイトをもち、各種媒体に寄稿もされていますね。
ライターとしての醍醐味を感じるのは、どのようなことでしょう。
取材を通じて、なかなか出会えないような人に会えたり、新しい知識が広がったりすることです。
自分が感じたことを人々に広く伝えることができるのが面白いと思います。
ケータイ小説作家としても時々作品を配信されているとのこと、
具体的に、どのような小説を書いていらっしゃいますか。
子供が少し大きくなってから、趣味を持とうと考えたんです。しかし、あまりお金や時間がかかることはできないもので、それで昔少し齧った文筆をまたやってみようと思ったんです。
たまたま日本に帰国したとき、本屋さんで光文社の「女性が書く女性のための官能小説」というコンテストがあるのを知りました。で、短編なので私にも書きやすいと思い応募しました。
ところが、入選したんだけど、約束の出版はボツになったんですね。やはり本の出版というのはお金がかかるので、リスクを考えるとなかなか実現しないものなのだと思いました。
それから日本では、ケータイ小説が普及して、私も小説を書いて原稿料をいただけるようになりました。
現在はモモカタリというレーベルで、ケータイコンテンツ配信のD社さんから官能小説(といっても女性を読者対象としているので、ずいぶんソフトなものですよ!)を、それとV社の「100シーンの恋」に恋愛小説を配信していただいています。V社さんでは恋愛ゲームのシナリオを書かせていただくこともあります。
なにしろ出だしが「女性が書く女性のための官能小説」だったもので、恋愛小説を書くという路線になってしまいましたが、それにこだわっているわけではないです。
ケータイ小説を書く際に心掛けているライティング上の特徴について、教えてください。
特に大きな違いはないと思うのですが、意識的に文章を短くすることを指導されました。
あと、読者が20代から30代の女性で、仕事や家事の終わった後、寝る前などにリラックスしながら読まれることが多いということなので、あまりたくさんの漢字や難しい表現は避けたほうがいいかと思います。
翻訳者とライターの相乗効果について、どのようにお考えですか。
特に文芸や雑誌記事の翻訳をしていると、どうしても原文に引きずられて、日本語としてちょっとおかしな文章になったりすることがあります。そういうとき、自分が作者だったら、どう書くだろうか? と考えるのですが、そういうとき、自分がライターとして自分の文章を書く訓練をしているのが役立つと思います。
日本の出版ビジネスは構造的不況が続き、過渡期にあたります。
一方、スウェーデンの出版翻訳事情は、いかがでしょうか。
スウェーデンではまだまだケータイで本を読む習慣はないです。これからではないでしょうか。
英語の本はポケットブックでよく翻訳されているようですね。
あと、小さな出版社も自分のニッチでよく健闘しているようです。
今後、どのような記事を書いてみたいですか。
ライターとしては今特に思いつきません。
小説としては、恋愛とか女性のための官能モノにこだわらず、また、もっと長編を書いてみたいです。小説こそ、翻訳や記事執筆にある一種の枠というか、規制にとらわれず、自分の好きなように書けるものだと思うんです。
ま、それが売れるかとか、読者にうけるか、というのは別問題になるでしょうけど。
岡田幸 おかだみゆき Okada Miyuki
翻訳者 通訳者 ライター
岡山県生まれ、1994年よりスウェーデン在住。
フリーの通訳・翻訳・ライターとして活動しながら小説を書く。
2001年 コスモス新人文学賞一般公募、長編部門で新人賞。
2003年 光文社女性が書く女性のための官能小説公募で入選。
その後、D社やV社よりケータイ小説配信中。

